■EC業者がチェックすべきポイント
2017年からチラホラと耳にしていた「改正民法」がいよいよ2020年4月1日から施行となります。お付き合いのある業者さんとの契約書や、お客様向けの利用規約など、契約全般にわたる非常に広範囲な変更となるため、見直し準備に追われた方も多かったと思われます。一方で、そんな情報まったく知らないよ、というお店さんの声を伺うこともあります。EC業者がチェックすべきポイントとは?と、ひとことでは片付けられないボリュームですので、まずはこんな変更がありますよ、といったポイントだけでも、かいつまんでご紹介してみたいと思いますので、これをきっかけに、法務ご担当の方と一度ご相談の機会をお持ちいただければと思います。
■10万円のテーブルを1万円と表記してしまった!
ECサイトでの価格表記ミスは、過去何度もニュースになってきました。例えば、担当者が約20万円のPCを、誤って価格2万円と表記した途端に1,000人以上から注文されてしまい、結果2億円以上の損失となり翌年サイトが閉鎖した、2003年の「丸紅ダイレクト事件」。購入者が「これは明かな価格表記ミスだな」とわかる状況であった場合は、「表記ミスです」と主張することは可能ですが、怒り心頭の購入者はそう簡単には許してくれません。実害は逃れられてもクレーム対応などで長時間要することになるでしょう。前述のように誤表記の価格で販売せざるを得ない状況もありました。でも、今回の改正法からは、もし、お店側が価格を表記ミスしても取引を取り消すことができる可能性が高くなり、そのハードルが下がりました。(改正法95 条3項)
逆にお店側で価格「1万円」と表示したテーブルを、著名な○○巨匠作のテーブルと勘違いしたお客様が「100万円を今すぐ支払うから誰にも売らずに明日届けて欲しい!」と入金されたので発送したところ、商品到着後にお客様から「巨匠のテーブルでは無かった、返金して欲しい」と申し出があった場合はどうでしょうか。この場合は、購入時に「○○巨匠の作品だと思うので高額でも購入したい」と事前にお客様が意思表示をしていたかどうかで結果は分かれるそうです。意思表示をしていれば、返品対象となり、意思表示をしていなければ返品できない可能性が高くなるそうです。(改正法95 条2項)
今までもこうしたミスによる争いはあったのですが(表示の錯誤、動機の錯誤)、今回の法改正で明文化されることで、販売側にとっても、消費者にとっても、より合理的に法律が変更されたといえそうです。
これ以外にも、「泥酔者であったことが証明できるなら注文は無効」といった意思無能力の明文化(改正法3条の2)や、自動受注メールにも「在庫確認して改めてメールをお送りします」などの記載があれば、在庫管理ミスなどによるトラブルも防げるようになったり(改正法97 条1項)、利用規約の変更についても、あらかじめ「この箇所は変更する場合があります」などと表記しておけば、利用者に一斉メールでお知らせするだけで規約変更が可能となったりと、適切に準備することで、業務が軽減されお客様とのトラブルを未然に防ぐことができる可能性があります。一方で、知らなかったではすまされない厳しい条件も見受けられます。まだ準備に手が付けられていない、という方がいらっしゃれば、繰り返しになりますが、ぜひこの機会に、利用規約といった定型約款だけでなく、契約にまつわる書類のチェック等を法律の専門家に相談されることをお勧めします。